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6巻・トリチアDVD・本誌のコンボに死にそうになりました(興奮的な意味で)
高律可愛すぎてたまりません…
続きより嵯峨律という名のただのストーカー律。律っちゃんって絶対塾とか行ってた筈なんだけどそんな描写無いから捏造で…。
『猫の飼い方・仔猫編』
自分でもおかしい事くらい、初めから把握している。
脳のネジを無くしてしまったのではないかと疑ってしまう程の心境の変化は、それは全てを一変する出来事だった。人生が180度変わってしまったといっても過言ではない。今までそんな事は無かったというのに、塾をサボりがちになったのもこの頃からであったし、帰りが遅いと母親に言われるようにもなってしまった。
一目惚れ、という言葉は聞こえはいいが酷く残酷でもある。何も知らない、ゼロからのスタートになる。その上あまり強い欲を持った事のないせいか、そこからどうしたいのかが自分でも分からなかった。好きになったところでああしたいこうしたい、という欲望が何一つ浮かんでこなかったのは大きな問題かもしれない。
そうやってぐるぐると思考回路が絡まっているところで、ふと生まれた欲は名前が知りたい、それだけだった。
けれど面と向かって名前を尋ねる事なんて問題外、かといって司書や先輩に知り合いはいない上に教師に聞くのは緊張してしまう。
結果、まるで悪い事をしているような気分に苛まれながらも眠っている時に直接けし掛ける他無く、ありったけの勇気と根性を振り絞って知った名前は嵯峨政宗。
走り書いたようなその文字が見た目の静けさとは反していて、それだけで胸が高鳴るのを感じながら、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。それから一週間くらいその喜びが尾を引いていたのか、友人には気味悪がられたりもしたけれど、そんな些細な事、と思ってまう分には舞い上がっていた事は痛いくらいに自覚していた。
同性を好きになってしまった背徳感を感じる余裕なんてものは無くて、気が付いたら引き寄せられていた。まるでそうなる事が決まっていたかのようにさえ思う。
あまり人と話さないせいで、声もあまり知らない。伸びた前髪から覗く瞳はどこかいつも遠くて何を考えているのかが見えにくい。
それでも好きになってしまった。初めて見たその瞬間から、何か強い引力に引き寄せられたかのような、絶対的で圧倒的なその存在感に、体全体が痺れたのを覚えている。強烈な初恋は、痛いくらいに身を締め付ける。そんな感情を押し付けようとも知って欲しいとも思う事は一度たりともなくて、ただ見ているだけで幸福感で溺れてしまいそうだった。
名前を知った後、自然ともっと彼を知りたくなった。少しでもその存在に近付きたい、その一心で彼の借りた本をひたすら追っていけば、なんとなく彼の思考の一部が覗けたような気がしてたちまち嬉しくて堪らなかった。
勿論そんな事は思い違いで、勘違いも甚だしいかもしれないけれど、気分によって借りる本の傾向が違うらしい彼の、機嫌の良し悪しが分かるから、面白かった。
そして高い確率で返却の遅延もしていた事も知った。司書が何か苦言していた所は見た事が無い所を見ると、そんなには口煩く無いようだ。
近所の図書館は一日でも返却を遅延しようものなら苦い顔をされていたけれど、学校の図書館というものは元々人の利用が少ないらしい。一冊や二冊遅れた所で問題は起こらないようだ。
それなのにやたらとマニアックな本ばかり見掛けるのは、恐らく司書の趣味なのだろう。
ふと壁に掛けてある時計を見上げれば、あと五分程で下校の時間のようだった。思わずきょろきょろと見渡すも、見慣れた姿が見当たらない。
来なければならないという義務は無いにしろ、やはり毎日見ていた姿を見ないと落ち着かないものがあった。ただ姿が見たい、という気持ちがあっただけかもしれないけれど、どうやら司書も同じだったようで、先程からきょろきょろと落ち着かない様子辺りを見回していた。
今日は外せない用事でもあったのかと、少し…ではない、かなり肩を落としながら溜息を零していると大きな足取りが聞こえ、はっと顔を上げて本棚に身を隠した。
「今日は随分と遅いね、もう閉めるよ」
息を切らして駆け入ってくる人物を見た瞬間、どこか嬉しそうにも聞こえるやや老いた声に返答はしないまま一目散に足を進めていく。
待ち侘びたその人はそのまま颯爽と本を掻っ攫っては名前を記入し、さっさと図書室を出て行ってしまった。
滞在時間は僅か三分にも満たない時間。それだけだというのに嬉しくてたまらなくて、そのまま時間だと追い出されるように図書室を後にした後に気が付いたのは、今日も塾をサボってしまっていた事。
それでも浮き足立ったこの状態ではまぁいいか、なんて事にしか思えず軽い足取りで岐路を辿って行った。