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律っちゃんの猫苦手ってのがすごくツボでした。
一見好きそうなのになぁ。
高野さん+ソラ太が好きです。



 緊急事態だと言うから来てみれば。

「…なんですか、これ」

 部屋の至る所に泡と水が散乱している現状に、小野寺は開いた口が塞がらなかった。
   

 

 


「悪いな、色々と」
「ええ、本当に」

 そこは大丈夫ですとか言うもんだろ、と理不尽に軽く頭を叩かれた事にはどうしても納得出来なくて、眉間に濃く線が刻まれる。
 そもそも、突然呼び出してきたくせにこの態度はどうなんだと、雑巾を千切れんばかりに絞りながら部屋へとと視線をうつした。
 先程まで散々散らかっていた室内も今ではすっかり綺麗になっていて、ちょっとした達成感を感じながらも、これが自分の部屋だったらと思わずにはいられない。
 自室の掃除をした方が時間を有意義に過ごせたのではないかと、現状を思い浮かべてはげんなりするのも致し方ないというものだ。
 明日は休日で、特に予定も入れていなかったから一日掃除に費やすのも悪くないだろうと、手元のそれを元の場所に戻した時だった。
 足元でみゃあ、と甘えた声が背後から聞こえて思わず体が跳ねる。
 他の人からすれば可愛いと感じるだろうその鳴き声。
 けれど昔からどうにも苦手な小野寺は過剰に反応してしまい、思わずよろけて壁に肩をぶつけてしまった。

「何やってんだよ、大丈夫か」
「す、すみません、平気です」

 どうやら動物からたいへん嫌われやすいようで、攻撃的な態度を受けるうちに苦手意識だけが強くなってしまったらしい。
 だいたい他の人にはごろごろと喉を鳴らすのに、自分に対してだけはいつも牙を向かれる。なんだかそれが納得出来なくて、自分よりも遥かに小さなそれに対し本気で敵意すら沸いたものだ。

「…また、預かったんですか」
「ん?ああそうだけど。お前猫嫌いだったっけ」
「ええまぁ、好きではないです」

 隠す必要も無いのではっきりとそう伝えれば、高野は物珍しそうにへぇ、とだけ呟いてそれっきりだった。
 何か言いたいなら言えばいいのに、とは思うけれど追求した所でいい答えが返ってこないのは目に見えていたので放置する事にしようと決め込む。こうなるとどちらともなく会話が途切れてしまうのは常だったが、自分が気にする事も無いだろうと少しだけ気まずいまま口を噤んだ。
 けれどすっかり冬使用のままの猫を重そうに抱き上げる高野が目に入って、しかも珍しく笑ってなんているから驚いてしまった。
 普段怒っている顔ばかり見ているせいか、どうにも高野が笑っている所を見るのは慣れない。変に緊張してしまうから、直視ができなくて逃げるように顔を背けてしまう。
 
 ソラ太は今でこそ横澤の家で飼われてはいるものの、高校生の時に高野が拾った猫だ。冬に一度見掛けたっきりだったけれど、以前よりもまた肉付きがよくなっているような気もする。
 高野の腕の中でごろごろと大人しくしてはいるものの、小野寺がこの部屋に緊急呼び出しを食らった原因は紛れも無くそのソラ太だったのだから、その呑気な表情は、ちょっとだけ気に入らない。




 ―今から直ぐに来い。

 それだけ言って、反論する間も与えずに切られた電話を腹立たしげに眺める事五分。
 時計を見れば夜の十時を回っていて、どうしようかと躊躇する事十分。
 こんなに悩むなら寝たふりをして電話に出なければよかったと後悔するも今更で、観念したように部屋に行けば遅い、と怒られて逆切れしそうになる所をなんとか堪えた。
 というよりは、小汚く散らかった部屋を見てそれどころでなくなった、と言った方が正しいだろう。

 聞けば、次の日が休みだからと遅い時間ながら猫を洗ってやろうと踏んだらしいのだが、どうやらソラ太は風呂嫌いだったらしい。それはもう思い切り暴れた挙句、風呂場から飛び出してしまったという。
 部屋の掃除を手伝って欲しいと言われて、その酷い有り様をを見てしまっては断る事も出来ずにこうしてつきあってしまったのだ。

「でも本当、助かった」

 けれど不意にそんな事をやたらと真面目な声で言われては、小野寺自身、何も言えなくなってしまう。
 その口ぶりからは本当に感謝しているのだという事が伝わってくるから、余計に。

「…いえ、俺も明日休みですし、大丈夫です」

 だからついその気持ちに当てられてそう口走ってしまったのが悪かった。

「じゃあ、明日お礼も兼ねてどっか行くか」
「は?」
「決まりな。寒い日の海もいいな」
「いや、俺行くなんて一言も、」

 言っていないのに、と続けようとしたものの、先日、高野の誕生日でのドライブを思い出して言葉が出てこなくなってしまう。
 結局あの日も無駄な抵抗に終わったのだから、無駄な抵抗は意味を持たないだろうし、あの近所迷惑となる行為をされる事だけは避けたかった。
 私生活も仕事同様、少々(どころではないが)強引すぎる所があるのだが、もう少しマイルドに出来ないのかこの男は。そう何度も思ってはいるが、今更そう簡単に性格が変わる筈もないから、どちらかが折れるしかないのだ。

「…ドア蹴るのだけは止めてくださいよ」
「キスさせてくれたら、」
「おやすみなさい!」

 高野の言葉を今度こそ途中で切ると、その勢いのまま大きい歩幅で部屋を後にしたのだった。

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