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羽鳥って無意識のうちに自分をどこか抑えてるというか、我慢しているというか、そういうイメージがずっとあるんです。

★先日は拍手コメありがとうございました~!!嬉しくてスクショしちゃいました´////`

本当は三日に一回くらい更新したいんですけど、なかなか難しいですね。

続きよりトリチアのつもりだったんですけど、トリチアなのかな…。
千秋寝てるだけです。いつも寝てるな。

 ごめん、やっぱり無理だったと、そう告げてくる表情はひどく後ろめたい様子だった。決して目を合わせようとしないまま、小さく震えた方だけが目に入る。
 真っ暗闇の中、方向も分からないくらいに歪んだ空間で、少し離れた所に立つのはよく見知った人物だとすぐに気が付いた。計画性の無い仕事のせいで痩せ細った体や、すっかり伸び切った髪、年齢よりいくらか幼く見える顔つき、それらはもう二十数年近くに居た男だ。見間違える筈も無かった。

 暫く呆然と立ち尽くしたまま、何を話せばいいのか分からなくなる。告げられた一言だけが脳内を反響して、支配していく。
 その中で、ただ一言どうして、と理由だけは聞きたくて口を開いたけれど、それが言葉として出てくる事は無かった。
 喉が詰まって、言葉が発せない。思わずそこに手を触れれば、焼けてしまいそうな程の熱を持っていた。
 反射的に手を離しながら、視線を正面に向ける。ごめん、と呟きながらも今度は少しばかり笑っているようで、なんだか気味が悪い。彼の、こんな目を背けたくなるような笑い方は見た事が無かった。
 何があったんだと問い掛けたくとも、それも叶わない。もどかしい気持ちだけが残留していて、どうにも落ちつかないままだ。
 無意識に足を一歩進めれば、彼も同じように一歩足をこちらへと歩み寄ってくる。一歩、また一歩と足を進めている筈なのに、いつになっても縮まらない距離が歯痒かった。
 本当に前に進んでいるのだろうかと疑い始めたところで、彼はゆっくりと口を開いて笑った。

「なあ、俺の事、好きなの?」

 何がおかしいのか分からないけれど、それでも彼は笑っている。疑うような瞳を向け、その場に立ち止まったままだった。
 彼からこちらへと近付いてこようとはしない。後ろで両手を組んだまま、静かにその場に立ち竦んでいる。
 問いかけてくる言葉に反応しようとも、声が出ないのだから、それに答える事も当然不可能だった。
 外見はまさしく彼そのものなのに、雰囲気や口調がまるで別人のようだ。反応するべきか一瞬戸惑った後、けれど導かれるようにゆっくりと頷いていた。

「何それ」

 しかしその瞬間、意外だと言わんばかりに声を上げ、けらけらと笑い出すのでぎょっとしてしまった。変なの、としきりに声を上げるさまは気でも狂ったのかと思うくらいに不気味であり、不愉快だ。
 彼であって、彼ではない存在に唾を飲み込んで目を逸らした。質問の意図も分からない、そもそもこの状況を呑み込めていないのだから当然だったのだけれど。

「でも、好きって言う割には臆病だよな、おまえ」

 吐き捨てるように漏らした彼の言葉は、直接胸に突き刺さったかのように痛みを伴う。傷を抉られたようなそれについ眉間を寄らせて首を弱々しく左右に振った。
 違う、そんな事はないと否定したくとも、完全にはそう言い切れない自身がいた事に今更ながら驚愕する。
 始まりがああだったから、もしかしたら流されて今の関係が成り立っているだけなのかもしれない。本当は、合わせてくれているだけなのかもしれない。
 もしあの時自分では無く別の、それこそ柳瀬だったり女性から告白でもされていようものなら同じようになっていたのかも分からない。
 こればかりは、正解なんて考えても導き出す事が出来なかった。
 一度そう考え始めるとネガティブのループが止まらなくて、同じ所ずっとぐるぐると回り続けてしまう。解決策を延々と探し出そうとするのに、全く見つからない。本当は無いのかもしれない。
 自分は吉野ではないし、それを追及出来る程に自信がある訳でもない。
 そしてそれを聞く事が出来たなら、とは何度思ったかもわからない。
 ああまただ、と下降していく思考を止められないでいると、側で笑う声が聞こえた。 

「おまえが思ってるよりずっと、俺は好きだと思うよ」

 気付けば俯いていたらしく、その声に顔を上げた瞬間息が止まる。先程までずっと先に居た筈の彼が、目の前で困ったように笑っていた。

「一番俺を知ってるのは、おまえだろ?」

 べらべらと一方的に話し掛けてくる彼に、ふ、と笑ってしまったのは、どうしてだろう。彼の笑顔にでも釣られたか。
 遥か底へと沈み掛けていた真っ黒な感情が、一瞬にして溶かされたような気持ちだった。
 そうかもしれないな、と呆れながら彼の頭を自分の胸に押し付ける。触れ合う部分がまるで氷のように冷たかったけれど、どうしてかその手を緩める事も、離す事も出来ない。
 そして彼の一瞬苦しそうにもがいた”ふり”も、それはすぐに抵抗を無くして笑っていた。

「きっと、待ってるよ、俺も」

 触れ合う部分が、少しずつ暖かいものへと変わっていく。溶けて混ざるような心地よさに、自分自身も蕩けてしまいそうだ。ああこんなにも温かかったのかと、いつまでも不鮮明だった感情が、ひっそりと輪郭を持っていく事を自覚する。それは思っていた以上にはっきりと写し出されていて、委ねるように体を預けた。
 その瞬間、急激に遅い来る眠気に抗う事が出来ず、ゆるりと瞼を閉じていた。


 そしてそれから、すぐに視界が明るく白んでいくのが分かる。眩しいくらいに差し込む光に眉を潜めれば、隣で眠っていた幼馴染―…ではなく恋人が、寝息を立てていた。
 そう、恋人。
 正直未だに信じられないという気持ちが強いのは、有り得ないと思い続けていたせいだろうか。
 呑気に寝息を立てている様子を見ながら、苦笑する。昨晩、確かに自分は一人で寝ていた筈だ。いつの間に潜りこんできたのだろうこの男には、少しの緊張感もありはしない。
 気が付かない程に寝入ってしまった自身にも驚いたけれど、こういう事は以前から何度もあった事だった。そしてその都度生唾を飲み込んできたのだ。
 そしてそれは関係が変わっても、状況が変わる事が無かったのは、時折押し寄せてくる大きな不安の波に飲まれて動けなくなってしまっていたからだ。

 ”きっと、待ってるよ、俺も”

 不意に、先程の言葉が脳裏を過ぎる。あれは夢、だったのだろうか。
 それにしても妙な夢だったなと、もう一度目の前の男に視線を移せば、先程まで辛辣な表情を浮かべていた筈の男と同じ顔をしていて、どうにも複雑な気持ちにさせられる。
 不思議な夢だったけれど、妙にすっきりとしていた。
 それにしても、と改めて寝顔を見つめて思うのは、夢の中の方がどこか知的に見えてということ。これはきっと間違いでは無いだろう。

「…いつまでも寝てると襲うぞ」

 ぼそりと耳元で呟いた所で起きる気配は無いらしい。
 ゆっくりとシャツに手を差し込むと、それを実行する事にしたのだった。
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